エネルギーマネジメントシステム(EMS)とは? 仕組みやメリット、導入における課題について

地球温暖化や資源価格高騰への対策として省エネが求められるなか、エネルギーマネジメント(EMS)が注目されています。EMSを導入することでエネルギーの使用量を可視化でき、適切な制御を通じて省エネやコストの削減が可能となります。
本記事では、EMSの仕組みや種類、メリット、導入時の課題を解説します。
目次
エネルギーマネジメントシステム(EMS)とは
エネルギーマネジメントシステム(EMS)とは、一般的にはエネルギーの使用状況をモニタリングし、設備・機器の稼働を適切に制御することでエネルギー効率を高めるシステムのことです。
エネルギーマネジメントシステム(EMS)の役割と仕組み
EMSはオフィスビルや工場、マンションなどにおける省エネにおいて重要な役割を果たします。
仕組みとしては、監視サーバーとネットワークをメインに構成されており、以下のステップで稼働します。
①データ収集
センサーや計測機器を通じて、電気消費量、ガス使用量など建物内のエネルギー使用状況をリアルタイムで収集します。
②データ分析
収集されたデータは監視サーバーに送られ、分析されます。分析を通じて、いつ、どこで、何にエネルギーが使用されているかを把握します。
③最適化と制御
データ分析結果に基づいて、エネルギー使用量が最小になるよう設備・機器を自動制御します。
エネルギーマネジメントが重要とされる背景
エネルギーマネジメントが重要になっている背景としては、気候変動対策としての脱炭素・カーボンニュートラルの実現や、SDGsに代表される持続可能な社会の実現に向け、エネルギーを効率的に使用し温室効果ガスの排出を削減することが強く求められていることがあります。
また、日本はエネルギー自給率が低いため、現状では海外からの化石燃料の輸入に頼らざるを得ませんが、そうすると輸入コスト上昇の影響を受けやすく、近年は電気料金の高騰に悩まされている企業も少なくありません。この点でもエネルギー効率を高めることが重要となっています。
温室効果ガス削減の対策としては再生可能エネルギーの導入も選択肢ですが、企業は一般家庭に比べ電気消費量が多く、再生可能エネルギーだけで電力を賄うことは容易ではありません。
そこで、エネルギー使用量の最適化を図れるEMSの導入が注目されているのです。
脱炭素やカーボンニュートラルについては以下の記事で解説しています。


エネルギーマネジメントシステム(EMS)の種類
EMSは、管理対象ごとに以下の5種類に分けられます。
・BEMS(Building Energy Management System)
商業ビルやオフィスビル向けであり、建物全体のエネルギー使用状況をモニタリングし、空調、照明、電力などの設備を適切に制御することで、省エネルギー化を実現します。
機能例:電力使用量の見える化、空調・照明設備の自動制御、ピークカット制御、設備の故障検知など
・HEMS (Home Energy Management System)
一般家庭向けであり、家電や照明、冷暖房などの制御が可能です。
機能例:電力使用量の見える化、家電機器の遠隔操作、太陽光発電システムとの連携など
・FEMS (Factory Energy Management System)
工場向けであり、施設全体のエネルギー使用状況を見える化し、生産設備を含めたエネルギー管理を可能にします。
機能例:電力使用量の見える化、生産設備の稼働状況監視、エネルギー使用量の分析、設備の故障予知など
・MEMS (Mansion Energy Management System)
マンション向けであり、建物全体のエネルギー使用状況を監視し、各戸や共用部の設備の制御を通じて省エネルギー化を実現します。
機能例:電力使用量の見える化、共用部の照明制御、エレベーターの運転制御、給湯設備の制御など
・CEMS (Community Energy Management System)
上記の施設を含めた地域全体のエネルギー使用状況をモニタリングし、需給を最適化することで、省エネルギー化を実現するシステムです。BEMSやHEMSなどは消費者側(需要側)でエネルギーを管理しますが、CEMSは供給者側の立場で需給を管理します。
機能例:電力使用量の見える化、再生可能エネルギーの利用促進、エネルギー貯蔵システムの活用、需要家間のエネルギー融通など
エネルギーマネジメントシステム(EMS)を導入するメリット
EMSの主な導入メリットとしては以下の4つがあります。
エネルギー消費量の「見える化」
エネルギー消費量を最適化するためには、まずは消費量を把握することが重要です。
EMSは建物内のエネルギー使用状況をリアルタイムで収集・可視化し、いつ、どこで、何にエネルギーが使用されているかを詳細に把握できます。この「見える化」によって、エネルギー消費パターンを正確に理解でき、エネルギー消費の最適化に向けた改善策やエネルギー計画を立てやすくなります。
非効率な機器や運用の特定
システムが収集したデータを分析することで、エネルギー効率の悪い機器や非効率な運用方法を特定できます。例えば、過剰に稼働している空調設備や、使用頻度の低い時間帯でも常時点灯している照明などを発見し、改善につなげることが可能です。電気の消費量や稼働状況の変化だけでなく、機器の老朽化や不具合も早期に発見できます。
エネルギー運用の最適化
EMSは過去のデータ分析に基づいて設備・機器を自動制御し、エネルギー使用量の最小化を図ります。例えば、不要な照明の消灯や空調の温度調整を自動で行い、常に最適な運用状態を維持することが可能です。的確な需要予測を通じて、ピークシフト(電力消費の少ない時間帯に電気使用量を分散すること)やピークカット(ピーク時の電気使用量の一部を使わないようにすること)を実現できます。
これにより、人手による管理では難しいレベルでの効率的なエネルギー運用が可能となります。
ピークシフトやピークカットについては以下の記事で解説しています。

エネルギーコストの削減と環境目標の達成
EMSの導入によりエネルギー使用の効率化が進むため、結果として施設や地域単位でのエネルギーコストの削減が期待できます。エネルギー消費量の削減は温室効果ガス排出量の削減に直結するため、企業や組織の環境目標達成に貢献し、「環境に配慮している企業」というブランドイメージの向上にもつながります。
エネルギーマネジメントシステム(EMS)導入における課題
一方で、EMSには以下のような課題があります。
導入コストがかかる
EMSは導入コストがかかり、企業の規模によっては大きな負担となる可能性があります。削減できるエネルギーコストを踏まえ、中長期的な費用対効果を試算することが重要です。
なお、国や自治体の補助金制度を活用することで導入コストを抑えることができます。
既存設備との互換性の問題
多くの建物や工場では、すでにさまざまな設備や機器が稼働しており、EMSを導入する際、これらの既存設備との互換性が課題となることがあります。例えば古い設備がEMSと連携できない場合のように、施設と機器の仕様が適合していないとEMSの導入効果は薄れてしまいます。
システムやデータ分析の専門知識が必要
EMSの設定や運用管理に関する知識や、収集されたデータを適切に解釈し分析するスキル、さらに分析結果を基に効率的なエネルギー計画を策定する能力など、エネルギー全般やデータ分析に関する知識・スキルが求められます。
こうした知識やスキルを持つ人材は希少であり、採用や育成、外部への委託などにコスト・時間がかかることも課題です。
まとめ
EMSはエネルギー使用量の最適化に貢献し、長期的な視点でのエネルギー管理や持続可能な事業に寄与します。前述のような課題を踏まえながら、組織の規模や目的、予算に応じて適切なシステムを選択し、段階的に導入していくと良いでしょう。
環境課題への取り組み例としては、ほかにも社用車/公用車のEV化があります。
社用車/公用車のEV化はエネルギーコストの削減や環境負荷の低減などに寄与するため、積極的に推進することが求められています。
また、EV化にあたってはスマート充電サービスのEnneEV(エネーブ)も併せて導入すると効果的です。電気の使用パターンや会社設備の規模にあった最適なEV導入計画を提案し、EV充電器の遠隔制御により電気料金の上昇を抑制できます。
以下の資料では、EVシフトのメリットやステップをまとめていますのでご覧ください。

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