OCPP充電器の普及を通じて、大規模展開可能なスマート充電システムの商用化に貢献!

企業インタビュー
OCPP充電器の普及を通じて、大規模展開可能なスマート充電システムの商用化に貢献!

EV用普通充電器で国内トップのシェアを誇る日東工業株式会社様。スマート充電サービス『EnneEV®』の開発において、エネットとともにEV充電システムの国際通信規格であるOCPP(Open Charge Point Protocol:EVの充電器と車両との間の通信や制御の仕方に関するルールを定めた国際標準通信プロトコル)に対応した充電器の開発を進め、さまざまな試行錯誤を経てリリースに至りました。

今回は、同社EVインフラ事業室長の豊福様、EMS事業室 担当課長の丸山様から、OCPP充電器の開発に踏み切った背景やその狙い、開発時に苦労したことなどをお伺いしました。

目次

EV用の充電器を開発・製造・販売し、普通充電器の出荷累計で国内トップシェアの日東工業株式会社様

(写真左)日東工業株式会社 EMS事業室 担当課長 丸山 様 (写真右)日東工業株式会社 EVインフラ事業室長 豊福 様

――まずは自己紹介と所属部門、業務ミッション、役割などについて簡単に教えてください。

日東工業株式会社 豊福 様(以下、豊福):エネルギーマネジメント統括部、EVインフラ事業室室長の豊福と申します。我々はEVのインフラを整備していくことを事業のミッションとしており、主に普通充電器の開発・製造・販売を行っています。

日東工業株式会社 丸山 様(以下、丸山):私はEMS事業室でEVのリユースバッテリーを使った蓄電池や急速充電器の開発を行っています。今年(2024年)の春までは、EVインフラ事業室にて充電器内部の通信部分の機能やネットワークのインフラ、クラウドのアプリケーション、サービスに対するフォローなどを担当していました。

――EV充電器の開発・販売に関するこれまでの実績などについても教えてください。

豊福:充電器ビジネスは2008年からスタートしており、当初から普通充電器に特化していました。2022年頃まではトヨタ自動車系の豊田自動織機様と共同で充電器を開発していたのですが、それ以降は弊社単独で普通充電器ビジネスを展開するようになりました。

 普通充電器に関してはずっとトップを走っており、台数の実績としては2万台強です。普通充電器といっても家庭用はターゲットにしておらず、ショッピングモールや宿泊施設、コインパーキングなど、外出先でスマート充電が可能な普通充電器の普及をめざしてきました。

スマート充電システムの標準規格普及をめざし、OCPP充電器の開発に着手

――エネットとはいつ頃からどのような関係があったのでしょうか?

丸山:2019年にエネット様からスマート充電サービスの開発についてのご相談を受け、OCPP対応の充電器の開発を担当することになりました。当初は開発が難しそうだと思いお断りしていたのですが、今後日本でEVが普及していくうえで避けて通れない道だと思い、開発に着手することにしました。

――御社が開発を始めるまで、OCPPを採用している充電器は国内にはなかったのでしょうか?

豊福:エネット様とともに開発に取り組むまでは、国内でOCPPを採用している充電器メーカーはありませんでした。日本では「ECHONET Lite(エコーネットライト)」という規格があったのですが、EV充電の世界では万能と呼べるものではなく、それが標準規格になるのは難しいだろうというのが我々の見立てでした。

――なぜ、日本ではOCPPが普及していなかったのでしょうか?

豊福:そもそも、日本では遠隔制御に対応できる充電器がほとんど存在していなかったためです。遠隔制御可能なものはメーカーごとの独自な仕様で通信する充電器や前述のECHONET Liteに対応した充電器が一部存在していた程度でしかなく、現在のようにEV充電サービス用のシステムがたくさんあり、それらがEVの充電を制御しているという環境ではありませんでした。

――そうした中で、なぜOCPP充電器の開発に踏み切ったのでしょうか?どういった狙いや背景があったのかなどを教えてください。

豊福:弊社としては、「ECHONET Lite」とは異なるオリジナルのAPIのインターフェースを準備していたのですが、ちょうどそのタイミングでエネット様からOCPPの開発依頼が舞い込んできました。
 OCPPは世界標準プロトコルと言われてはいたものの、日本ではまだ普及していなかったので開発に着手すべきか迷っていたのですが、エネット様からの熱い要望を受けて、日本でも今後OCPPが標準規格になるだろうと見込んで開発することにしました。

丸山:実は、2017年頃には国内でEV充電器の普及が止まってしまい、そこからさらに増やすには補助金に頼る必要のない安価な充電器を提供していかなければならないと感じていました。そこで、どのように充電器を増やしていくべきかエネット様に相談していく中で、国際的な標準規格であるOCPPを普及させていくことが重要であると認識するようになりました。

 しかし、OCPPの普及に向けて踏み出す必要性は理解していたのですが、技術的な壁が高いことに加え、投資したコストをきちんと回収できるのかという懸念もありました。

豊福:とはいえ、我々は充電器メーカーですので、今後国内でOCPPが普及すればそれに対応した充電器をラインナップしなければなりません。OCPPが普及したときに弊社がOCPPに対応できていなかったら、対応している他社に負けてしまう可能性を感じていました。そうしたこともあり、思い切って開発に取り組むことにしました。

丸山:加えて、弊社は充電器メーカーとしてそれまでもずっとトップを走ってきた自負がありましたので、我々が率先してOCPPという新たな課題に取り組むべきだという思いもありました。

情報収集では言葉の壁にぶつかり、実装ではグレーゾーンの多さに苦労する

――日本初となるOCPP充電器の誕生までにはどのような苦労がありましたか?

丸山情報収集の段階では、英語を読み解くことにかなり苦労しました。充電器に関する専門用語も多く、OCPPの仕様を読解する段階でだいぶ苦戦しましたね。

 また、OCPPに関する情報はその技術を持っている海外の企業から取り寄せるしかないのですが、多くの企業の中から正しい情報を持っている信頼できる企業を探し、情報提供してもらうことも簡単ではありませんでした。相手の企業も情報の価値を理解しているので、そう簡単には有益な情報を提供してはくれず、特にOCPPの規格そのものに関する質問にはなかなか答えてくれませんでした。ですので、OCPPに関する知識・ノウハウを知るためには自力で何とかしなければならない状況でした。

 OCPPの文書には例となるシステム構成が記載されているのですが、急速充電器が主流の欧州を例にとっており、弊社が開発しようとしていた普通充電器でOCPPを使ったシステム構成例が記載されていませんでした。そのため、企業に質問するときも質問の前提を変えなければならないなど、多くの点で苦労しました。

 また、英訳のOCPP公式文書を解釈する上で仕様があいまいなところがあり、ドイツ語のOCPP公式文書を紐解く必要があったり、公式文書に多くの間違いがあるのですが、間違いが修正されない公式文書を前提に、開発を進めなければならない状況も珍しくありませんでした。
※公式文書は修正しない旨が正式に発表されていますが、間違いの箇所をまとめた文書が別文書として配信されています。

情報収集では言葉の壁にぶつかり、実装ではグレーゾーンの多さに苦労する

――情報収集の段階で多くの苦労があったのですね。実装段階で苦労された点はあったのでしょうか?

丸山:ありましたね。というのも、本来規格には要求事項や推奨事項などのルールが数多くあるのですが、OCPPは規格自体にグレーゾーンの部分が多く、そこに関してはシステム開発の業者に依存せざるを得なかったのです。設計・開発段階では見えなかったグレーゾーンがシステムを接続するテスト段階で初めて見えてきて、深掘りするとさらにグレーゾーンが広がっていくこともあったので、評価自体にも非常に時間がかかりました。
 しかも、海外のシステムベンダーに問い合わせてもなかなか返事が返ってこないことが多く、評価に時間がかかるので、自社内でできる評価は極力自社でやっていくようにしました。
 また、OCPPのリリース後に運用していく中でこまめに仕様変更していくという工夫も行いました。そのおかげで、国内でもOCPPを運用できるようになりました。

――非常に多くの苦労があったのですね。開発に着手してからリリースするまでどのくらいの期間がかかったのでしょうか?

丸山:開発に着手したのが2020年1月で、2021年2月頃まで開発の評価をしていました。同年の5月に正式販売しているのですが、それまでの4か月間こまめに仕様変更を重ねていました。ですので、開発からリリースまでだいたい1年半くらいかかっていますね。

商業用含め、すべての充電インフラをカバーできるのがOCPPの強み

――そのように多くの苦労がある中でOCPP対応の充電器の誕生に至ったわけですが、OCPPにはどのようなメリットがあるのでしょうか?

丸山:従来のECHONET Liteとの比較でいうと、これはもともと家庭に充電器を設置する際の規格であるため、公共施設のような家庭以外での場所での充電はカバーできません。これを標準規格としてしまうと、家庭用以外の充電インフラの規格はすべて自分たちで作るしかなくなってしまいます。
 一方で、OCPPはすべての充電インフラの市場をカバーできるので、標準規格として最適というメリットがあります。

――そうして完成したのが国内初採用のOCPP普通充電器と、それを活用したエネットのスマート充電サービス『EnneEV®』ということですね。スマート充電の重要性についても教えてください。

豊福:現状では、発電する電力は常に一定ではありませんし、料金も変わってきます。特に、太陽光発電は発電する時間が昼間に限られ、夜間の需要には応えられません。そこで重要になるのがEVの充電の出力を上げ下げして調整するスマート充電であり、電力需給の課題を解決するうえで不可欠だと思います。

丸山:EVが増えるほど、エネルギーが枯渇しないように最適な発電のあり方を模索しなければなりませんし、再生可能エネルギーを有効活用するには再生可能エネルギーの発電に合わせたスマート充電が不可欠になってきます。
 また、より多くのお客様が充電器を利用するためには当然充電器の設置数を増やさなければなりませんし、限られたリソースの範囲内で多く設置するためにはスマート充電がますます必要になってくると思います。例えば、長い時間をかけて充電しても問題ない車両がたくさんあるのなら、小さい出力でも十分充電は可能ですから。

商業用含め、すべての充電インフラをカバーできるのがOCPPの強み

――その一方で、スマート充電には改善すべき点もあるのでしょうか?

丸山:今後改善すべき点として、スマート充電のシステムの負荷を軽くしていかなければならないと思います。システムの負荷が重いということは、スマート充電という社会インフラを維持するためのコストが大きいということですので、もっと安価に維持できるようになれば良いなと思います。

――最後に、今後EV充電器はどうあるべきか、設置工事やスマート充電サービス、電力料金などに関してどのような展望が考えられるかお話しいただけますか?

豊福:充電器に関しては「コネクテッド」であることが非常に重要です。つまり、当たり前のように遠隔から充電を制御し、電力をコントロールできることが大切だということです。
また、前述のようにシステムそのものやそこで発生するデータ通信のコストも下げていく必要がありますし、充電器を大量に販売することで1台当たりのコストも下げていかなくてはならないと思います。

丸山:EV充電器においても今後は「サーキュラーエコノミー」という考え方が重要になると思います。通常、経済循環の過程でモノをリサイクルする際には多くの産業廃棄物が生じますが、この時発生する廃棄物やエネルギーの浪費を極力なくす事がとても重要です。しかし、それを実現するためには多くの企業が技術的に協力する体制を構築していく必要があります。EV充電器は、サーキュラーエコノミーの視点では、まだ入り口に立ったばかりだと思いますので、これからも新たな事業や会社もどんどん出てくるのではないかと思います。

豊福:まずは、エネット様がNTTグループに導入されている仕組みは非常に先進的ですので、より多くの人に知ってもらいたいと思います。その過程でEVの利便性や経済性、環境負荷の小ささといったメリットを知ってもらえるとうれしいですね。

EnneEV(エネーブ)サービス資料_1

スマート充電サービス『EnneEV®(エネーブ)』サービス資料

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